「 威丈高に日本を非難する前に中国は己の戦後史を省みよ 軍事力による弾圧の数々を 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年6月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 596
中国が威丈高である。町村信孝外務相が5月6日、「靖国神社に行ったから日本は軍国主義だとか批判もあるが、とんでもないことだ」と述べ、日本は赤字国債を出してまで世界一のODA(政府開発援助)を提供し続けてきたと語った。外相発言は自然であると同時に当然である。
だが、中国はただちに反論した。外務省の劉建超副報道局長が7日、「経済援助を行なったからといって戦争責任が消滅するわけではない」と述べたのだ。中国は日本の国連安保理常任理事国入りを阻止し、日本の影響力を殺ぐために、すべてを材料にして日本批判に全力を注ぐ。
靖国参拝即軍国主義、歴史への反省の欠落と言い立てる中国は、それほど立派な国なのか。第二次世界大戦以降、中国がどれほどの軍事力で周辺諸国を弾圧してきたことか。
たとえば、チベット人は言う。「なぜ独立国のチベットが中国にのみ込まれ、民族浄化のひどい弾圧を受けなければならないのか」と。
チベットは日本と並ぶ長い歴史を持つ独立国だ。自由チベット協議会などの資料によると、ソンツェン・ガンポという国王が国を統一したのは、日本では大化の改新の頃だった。中国政府は、13世紀以降、チベットは中国の領土だと主張するが、この場合の中国とはいったい何を指すのか。チベット出身のペマ・ギャルポ氏が指摘した。
「モンゴル帝国と清帝国のときには、チベットがその版図の中にあったとはいえますが、両帝国共に、現中国を支配する漢民族ではありません。支配したのはチンギスハンであり、女真族(じょしんぞく)です。漢民族の明の時代には、チベットはまったくその版図に入っていません。漢民族の支配する現中国の“チベットは中国の一部”という主張は、まったく根拠がないのです」
中国は52の少数民族を力で支配し、それらすべてを中国と称する。そこにチベットも含まれる。ギャルポ氏らは、「600万の人口を有していたチベットは決して少数民族ではない」と言う。地球上の国々の三分の一は人口100万~1,000万人であり、総人口600万人は、むしろ世界的に見て平均的なサイズだというのだ。それを独立国でなく、少数民族と位置づけること自体、事実を見る目を曇らせる。
チベットの国土もまた広く、現中国の面積のじつに四分の一に及ぶとギャルポ氏は訴える。広大な国土を取り上げたうえに、中国がチベット人に行なってきた弾圧のすさまじさは筆舌に尽くしがたい。生爪をはがしたり、逆さ吊(づ)りにして鞭打つなど珍しくもない。凄惨な個々の拷問に加えて、すさまじい移住政策がある。
人口600万人の国に、現在まで720万人と見られる漢民族が移住した。しかも、そこには少なくとも50万人の軍人が含まれる。軍人は男性ばかりで、適齢のチベット人女性との結婚を奨励されてチベットに定住する。チベット人の血は、混血によって薄められていく。まさに民族浄化作戦だ。ギャルポ氏が語る。
「チベットには今でも労改と呼ばれる強制収容所が多数あり、中国に反抗するチベット人が捕らわれています。逮捕、拘禁され、拷問を受け続けているチベット人の数は、その実数さえわかりません。われわれはこれまでに120万人のチベット人が命を落としたと推測しています」
武力、暴力、弾圧、無法によって中国はチベットを奪い、支配し続けている。圧政はチベットにとどまらない。第二次大戦後、武力をもって国土を拡大してきた国は、地球上で中国一国のみだということを忘れてはならない。
靖国神社問題で日本を非難する前に、中国は軍事力を背景にした己の圧政をこそ、反省すべきだ。中国に非難されて、節操もなく譲歩に走る日本人は、戦後の中国の行動を、まず学べ。